「そこには女性に対する深いまなざしがあった。5人の監督が切り取る女の今。時代は変わった。男も変わった。でも女の美しさだけは変わらない。」
(ロマンポルノリブートプロジェクト予告映像より)
左から塩田明彦監督、白石和彌監督、園子温監督、中田秀夫監督、行定勲監督 (C) 2016 日活
10分に1度の濡れ場、低予算、撮影期間は1週間。日活が独自の撮影ルールで制作していた成人映画「日活ロマンポルノ」が11月26日から復活します。
行定勲監督『ジムノペディに乱れる』を皮切りに、塩田明彦監督『風に濡れた女』、白石和彌監督『牝猫たち』、園子温監督『アンチポルノ』、中田秀夫監督『ホワイトリリー』の5作品がそれぞれ過去のロマンポルノ作品と同時公開される。メガホンを握るのはいずれも日本映画の第一線で活躍する監督たち。
前回は日活さんにロマンポルノの魅力について聞きましたが、今回は新作についてインタビューです。
ロマンポルノはワイセツですか?日活の新たな挑戦とは – ランドリーガール
ロマンポルノを男女が楽しめるエンターテイメントへ
日活ロマンポルノのサイトには下記文面がつづられています。
「日活は、1971年に、男性に向けて”裸の物語”の製作を開始。センセーショナルな表現で性という人間の根源を描き、社会現象となりました。それは計らずも映画の新しい表現への挑戦の場となり、男女の新しい価値観も生み出しました。
2015年の現在、人間の根源である性ついて、男性・女性ともに考え、語られる時代になっています。しかし、それを堂々と表現することは、未だタブー視されています。
日本のマスメディアが放送内容に関して自主規制を厳しくする一方で、猥褻な画像や映像はインターネット上に溢れています。公の場での表現が規制された時、それを補ってきたのが映画でした。パソコンやスマホから容易に入手できる猥褻な情報に”ロマン”は皆無です。
このように性の表現が二極化する中で、日活は再び<裸を題材にした人間の本質的なドラマ=”裸の物語”>をつくることに挑戦します。男性も女性も等しく楽しむことができるエンターテイメントとして、新しいロマンを生み出します。」
「オリジナル映画を作りたい」に応えたい
性に対する意識が変わってきた今だからこそ、人間の本質的なドラマをエンターテイメントとして再始動する。なぜ28年ぶりに復活させたのでしょうか。
「日活には吉永小百合さんや浅丘ルリ子さんが出演された映画も数多く存在していますが、日活ロマンポルノも“日活”という名前が付いたレーベルであり、日活の大きな財産です。なので、何もしないままにするのではなく新作を作ることでライブラリの価値をより高めたいと思っています。」
左から 配給宣伝部 滝口さん、企画編成部サブリーダー 高木さん、企画編成部プロデューサー 西尾さん (日活本社にて)
ロマンポルノは10分に一度の濡れ場など独自の条件がありましたが、それさえ守れば自由に作品を作れたため名作を数多く生み出しました。復活させる背景にはクリエイターからの熱い視線もあったといいます。
「クリエイターの方々にロマンポルノファンだという方が非常に多く、弊社としてもそのような方と仕事をしていきたいと考え、このタイミングでロマンポルノを世に打ち出そうと決めました。」
とはいえ、この時代に日活がロマンポルノを撮るというのは大変なはず。そこには日本を代表する映画制作会社ならではの想いが。
「今はマンガ・小説原作の映画が増えています。製作委員会方式で作る機会も多く、どうしても数百万部売れた本や有名作家が書いたものじゃないと映画が成立しにくいため、オリジナル脚本の映画を作るのが難しくなっています。
しかしオリジナル作品を作りたいという声は多く、弊社としても作りたいと思っていました。ただ現状、何もないところでオリジナル映画を作っても難しいんです。でも日活ロマンポルノというレーベルと制作環境があればオリジナル映画が作れるなと。なので新作を通じて日活がこれからも面白い作品を作っていくということを知ってもらいたいです。」
撮影1週間、10分に1度の濡れ場。監督5人のガチバトル
今回撮影された新作ロマンポルノの条件は・総尺80分程度・10分に一度の濡れ場・制作費は、全作品一律・撮影期間は1週間・完全オリジナル作品・ロマンポルノ初監督というもの。
「今回参加している監督が通常作られている作品の5~10分の1の金額、桁が一つ違うくらいの予算で作っていただいてます。撮影期間も1週間なので、その中で各監督には工夫してやってくださいとお伝えしました。」
5人の監督全員がロマンポルノ初監督。どうやって選んだのでしょうか?
「5本をほぼ同時に公開するのでバリエーションが出るように。そして5年後のロマンポルノ制作50周年に向けて新作を作り続けていくため、まずは知名度と実力を兼ね備えた方にお声かけしました。
実際、ロマンポルノには10分に1度の濡れ場というルールがあり、作品中に数回ある濡れ場をバリエーションに富みつつ、楽しませる魅せ場にしなければならないためかなりの技術が必要です。」
80分に8回の濡れ場・・作品を撮り終わった後は監督たちから「俺たちでもできた・・・!」と安堵の声が上がってきていたそうです。
こんな過酷な撮影条件でなぜオファーを受けたのか。それは監督らもみんなロマンポルノへの想いがあるからだそう。ロマンポルノ作品で助監督を務めたり、修業をしていたり何かしらご縁もあったとのこと。行定監督は東京に上京してきたタイミングで日活の撮影所に「ロマンポルノの現場に(助監督として)雇ってください」と飛び込みでお越しになったとか。
男がダメになったからロマンポルノが難しい
そんな監督たちが撮り下ろした新作5本。一足先に拝見しましたが、本当に監督ごとに色が異なり、切ない気持ちになったり、笑ったり、健康になったり(?)観た後の気分も作品によってバラバラです。
塩田明彦監督『風に濡れた女』12月17日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開 (C) 2016 日活
園子温監督『アンチポルノ』2017年1月28日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開 (C) 2016 日活
中田秀夫監督『ホワイトリリー』2017年2月11日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開 (C) 2016 日活
そんな新作は今の時代を反映した5人の監督たちの極私的エロスだといいます。
「足の指を舐めさせたり、パンツのタグは絶対切らないでという人もいたり、各監督のこだわりが如実に表れていますよ。女性の下着の趣味も出ていますが、あまり男性目線になりすぎないよう『監督、それは女性としてリアルじゃないです』と女性のプロデューサーが言ったりもしました(笑)」
作品には監督が思い描く女性像がリアルに現れています。もしかすると作品を見れば監督らのモテ度もわかるかもしれません。しかしながら監督からは「今は男がダメになったからロマンポルノを撮るのが難しいよ」という声も出ていたとか。
「監督たちが言っていたのは、当時は男女ともにかっこよくたくましく描かれていた。でも今は男がダメな時代だから濡れ場を作るのが難しいと監督自身も男ながら話していました。新作に出てくる男性は全員ダメンズ。弱くて、女性に圧倒され、振り回され、置いていかれる男性たち。それを男性が見たらタジタジになるんじゃないかなという気は少しします(笑)」
行定勲監督『ジムノペディに乱れる』11月26日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開 (C) 2016 日活
白石和彌監督『牝猫たち』2017年1月14日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開 (C) 2016 日活
確かに昔のロマンポルノを見た後に今回の作品を見ると時代と男女の変容を感じます。女性は自立し気づけばロマンポルノを楽しめるようになり、裏腹に男性はロマンポルノが見れなくなってしまうのか・・・。
男性はいわゆる本番の性行為映像をスマホで見れてしまうだけにロマンポルノをみて何を思うのでしょうか。
「20代の男性によるとスマホで見ている絡みのシーンを大きいスクリーンで大音量で見るだけで圧倒されたそうです。あとは誰かと一緒にそういう映像を見るというのはこの機会じゃないとなかなかできないと。
とはいえスマホでいつでも本番が観れる中、映画館まで行って本番でもないものを見る必要があるのかと。だからこそ私たちとしてはスマホにはないサプライズや映画を観た後に残せるものを提供していかないとと思っています。」
画面に溢れる”女の覚悟”と”女を見つめる眼差し”
最後にこれから作品を見る人へメッセージをもらいました。
「5作品とも監督がミューズを見つけてきています。彼女たちのほとんどはこれが初主演で覚悟を持って出演しているのでスクリーンに溢れる彼女たちの覚悟も見てもらいたいです。あとは監督ごとに女性の描き方、女性に対する目線が違うのでそれも見比べてもらいたい。女性として受け取ってみてほしいです。」(企画編成部 西尾さん)
「今は映画の尺が2時間超えるものも増えています。でも日活ロマンポルノは約70分で濃密なドラマが見れるので一度見るとはまります。作品は玉石混合ですが一度何か1作品見てみてほしいです。作品によっては鑑賞後一人で飲みに行きたくなったり、シチュエーションごとに受け取るものが違うので余韻も楽しんでください。今回は新宿で上映するので隣に座っている方と飲みに行くとか…」(企画編成部 高木さん)
みなさん、ありがとうございました。
多くの情報や映像が氾濫し簡単に誰とでも繋がれてしまう時代だからこそ、男女の本質や距離感をロマンポルノから感じてみてはいかがでしょうか。想像していたものとは違う世界が広がるかもしれませんよ?