ところで「日活ロマンポルノ」って、ご存知ですか?
イメージとしては映画製作会社である日活が制作していた昔のAVというところでしょうか。もしそうだとしたら半分正解で、半分不正解。
ロマンポルノとは、映画製作会社である日活が1960年代にテレビの普及をうけ映画製作を一時中止し、業績を立て直すために始めた成人映画。ロマンポルノは上映時間70分程度、10分に1回の濡れ場を入れるなど独自の規定さえ守れば自由な作風が認められていたため数多くの名作を生み出し一時代を築きました。しかしながら、アダルトビデオの台頭により1988年に幕を閉じます。
そんな日活ロマンポルノが11月26日より28年ぶりに復活します。しかも、日本映画の第一線で活躍する監督たちの手によって。
ロマンポルノリブートプロジェクト予告映像 11月26日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開 (C)2016日活
当時、成人映画として男性の心を掴んでいたロマンポルノですが、今は女性もターゲットにしているそう。確かに作品を観るとエロではなく純愛映画に見えてしまったりもします。なぜなのでしょう?
今回の「性とアート」では日活にインタビュー。ロマンポルノについてお話を伺いました。
今だからこそ楽しめるロマンポルノの魅力とは?それでは日活さんを覗いてみましょう。
左から本企画の新作をプロデュースする企画編成部 西尾さん、旧作をプロデュースする企画編成部 高木さん、宣伝を担当する宣伝配給部 滝口さんの3名。まさかの全員女性でした。
ロマンポルノはポルノじゃない
ロマンポルノと聞くと、その言葉のイメージから性的興奮を得るだけの作品、AVと同じだと思っている人も多いように感じます。
「“ポルノ”という言葉が強いのですが、ロマンと切り離せないものとして観てほしいです。つい濡れ場に目がいってしまいますがロマンポルノは相手との距離をどうやってつめていくかという人間模様を描いてます。作品によってはレイプのような形で急に男女の距離をつめてしまうこともありますが、それでも最終的にはそこから相手との距離をどう縮めていこうかという心の葛藤が描かれているんです。」
事実、ロマンポルノが制作されていた当初は、経営難に直面した日活が低予算で利益がとれるエロに活路を見出していました。
しかしながら、ロマンポルノは量産体制だったことから若いクリエイターを多く起用し、10分に1度の濡れ場、低予算などロマンポルノの独自規定を守れば自由な作品が作れたことから作家性の強い作品も生まれ若手監督の登竜門になっていたそう。
ロマンポルノは日活の財産
日活にとってロマンポルノはどのような存在なのでしょうか?
「日活には吉永小百合さんや浅丘ルリ子さんが出演された映画も数多く存在していますが、日活ロマンポルノも“日活”という名前が付いたレーベルであり、日活の大きな財産です。」
日活ではロマンポルノを男性に限らず多くの人に見てもらいたいと、2001年、2002年、2004年にパルコで女性限定ロマンポルノ上映会を開催。220席が満席になっていたそう。その後、2012年には日活創立100周年企画として「生きつづけるロマンポルノ」という上映企画を実施。イベント最終日には通路が人で埋まるほどの大盛況だったとのこと。
「生きつづけるロマンポルノ」ビジュアル (C)2016日活
「最初はロマンポルノを見ていた世代が来ていましたが、日を追うごとに年齢が下がり最終日には9割近くが2、30代の方でした。反応を見る限り、若い世代でもロマンポルノを見ると面白さに気づいてくれます。女性も多かったです。女性のお客様を考慮してレディースシートを用意してましたが座りきれないほど女性が来ていました。」
なぜ若い層や女性客が増えたのでしょうか。
「各業界のロマンポルノ好きな方がそれぞれ紹介してくださり、少しづつ広がった結果エンドユーザーに届いたのかもしれません。
弊社としてはロマンポルノは面白いのに女性や若い人たちに届いていないのがもったいないと思い、ポスターやチラシを女性も気になるデザインにしました。これまでロマンポルノを取り上げていた週刊誌など以外に女性誌などでも取り上げられ、女性も観れる作品だと認知されたのかもしれません」
今後もロマンポルノの間口を広げていくとのことですが、劇場来場者からも時代の移り変わりを感じているそう。
「2001年にパルコでロマンポルノ上映をした時はサブカル全盛期。来場している女の子は好奇心旺盛で能動的に情報を取りに行っている印象でした。
しかし今は何でもスマホで情報が得られる時代。情報があふれている中からどうやって自分で選べばいいのかわからない人もいると思います。自分から春画展に行くような方は好きなものをみつける嗅覚がありますが、そういう人たちばかりではないですよね。そういう人たちにいかにアプローチしていくか発信する方法も異なってきています。」
ロマンポルノは芸術?ワイセツ?
ロマンポルノ・リブート・プロジェクトのビジュアルはかなり個性的。そこには「ワイセツって何ですか?」という挑戦的なワードが。最近は春画をはじめ”芸術かワイセツか”というフレーズをよく耳にしますよね。
「春画等で”芸術かワイセツか?”と話題になっていますがロマンポルノはその部分では元祖です(笑)」
ロマンポルノ・リブート・プロジェクト ポスタービジュアル 11月26日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開 (C)2016日活
日活ロマンポルノがスタートした翌年1972年、映画を自主的に検閲規制する機関である映画倫理委員会(映倫)を通過したロマンポルノ作品が警視庁からわいせつ図画公然陳列罪に問われ摘発されました。関係者135人が送検、日活社長以下、監督や映倫の審査員が起訴に。
この裁判は「日活ロマン・ポルノ裁判」と呼ばれ、”芸術かワイセツか?”性表現をめぐり約8年争い全員無罪で裁判は終焉したそうです。
そんな争いを経て、このキービジュアルには「ロマンポルノは芸術だ」という思いが込められているのでしょうか?
「たしかに芸術かワイセツかは論じられていましたが、ロマンポルノを作っていた時は会社が経営難で、それを立て直すためにひたすら映画を作っていたので芸術だ何だという気持ちは少なかったのではないかと。結果として、いい作品が生まれ今でも映画として見られ、そのように感じていただけているということだと思います。
アートを見ているような層にも届いて欲しいとは思っていますが、決して『これはアートなんだ!』と言いたいわけではないです。作品を見ればわかりますが、ロマンポルノは難しいアート作品ではなく生の感情が喚起される映画です。」
「ロマンポルノは今まで1100本公開され玉石混合。今回の企画もロマンポルノは素晴らしい作品ばかりだぞと伝えたいわけではなく、面白いジャンルの一つであり、70分で感じられるものがあると受け取ってもらえたらなと。
もちろん作品の中でエロティックな部分も一つの要素なので、そこはそこで楽しんでもらえればいいなと思います。」
70分で突き詰める男女の距離。今だから感じて。
様々なメディアや情報が溢れ、エロティシズムにおいても本番映像がインターネットで見れる時代にロマンポルノを映画として面白く感じられるのでしょうか。
高木さん、滝口さんは日活ロマンポルノに魅了され日活へ入社したそう。ロマンポルノの魅力はどこにあるのでしょう?
「もともと映画が好きでたくさん作品を観てきましたが、大学時代に初めてロマンポルノを観たときに今までに見たことがない映画だ!と衝撃を受けました。
映画の情感が豊かで、日活ロマンポルノは70分程度ということもあり話がシンプルかつ10分に1度の濡れ場が必要というルールの中で、相手との距離をどうやってつめていくかの人間模様を描いてます。SNSですぐに人と繋がれてしまう今だからこそ、体当たりでぶつかり合うロマンポルノの距離感を自分の身に置き換えた時に考えさせられるものがあるかもしれません」
後編では日活が新作に込めた思いや復活の意図を伺います。
【ロマンポルノリブートプロジェクト公式サイト】
http://www.nikkatsu-romanporno.com/reboot/
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