「このままじゃ取り残される」吉原で生まれた女性の挑戦とは?新吉原インタビュー

吉原の魅力を発信するブランド「新吉原」。吉原で生まれ育ったオーナーの岡野さんにインタビュー。彼女がブランドを立ち上げた想いとは?

「生まれてからずっと吉原。いつか地元に貢献したかった」

そう語るのは吉原から少し歩いた先、西浅草にお店を構えるブランド「新吉原」のオーナー岡野弥生さん。彼女は吉原の魅力を発信すべく、クールで少しエッチなオリジナルブランド「新吉原」を立ち上げ活動しています。

「吉原」と聞くと漫画「さくらん」など江戸時代の遊郭やソープ街を思い浮かべる人も多いはず。でも、いざ足を踏み入れればそこには普通の住宅があり、普通の生活があります。

今回の「性とアート」では岡野さんを直撃。「新吉原」を立ち上げた理由、そして、吉原が持つ魅力を伺いました。

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2014年に立ち上げた 「新吉原」。吉原の魅力を発信することをコンセプトに“江戸土産”としてオリジナル商品を展開し、2016年6月には直営店「岡野弥生商店」をオープンしました。

キャッチーな名前もですが、独自の和テイストで注目を集めビームスや羽田空港でも商品が取り扱われているほか、最近では「NUMERO」や「mini」などファッション誌でも紹介されています。

———「新吉原」を立ち上げたきっかけは?

生まれてからずっと吉原に住んでいるので、いつか地元で何かやりたいと思っていました。20代はファッション誌の編集をしていて、青山付近での仕事が多く地元には寝に帰るだけという生活でした。気づいたら地元で過ごす時間はほとんどなくて、そういう生活は嫌だなと思い編集をやめたんです。

それから35歳までには地元で何かしようと思い、最初はサービス業をやってみようと某ホテルでアルバイトをしてみました。でも、吉原で飲食をしても人を呼ぶのは大変だし、これは違うなと。それで、土産物屋を思いついたんです。

もともと海外で面白い土産を探すのが好きで。それで、ふと近所を見たら浅草は土産物は多いけれど自分が欲しいものはあまりないし、地元の吉原は歴史もあるのに土産物屋がないと気づいたんです。

ベタな土産物もいいけど「どこで買ったの?」とツッコまれる土産物があってもいいんじゃないかなと思って2年前に新吉原をスタートさせました。

%ef%bc%92土産物じゃなくても、つい自分用に買ってしまいそうな商品が並ぶ店内

———吉原が好きなんですね

生まれた場所だし、こんな特殊な場所はないですよね。歴史も長く歌舞伎や映画の舞台にもなっています。ただ今もソープ街なので取り上げにくく、あまりよく言われません。だから吉原を取り上げるとなると江戸時代ばかりで勿体無いですよね。

———良くも悪くも吉原が持つイメージが強いんですよね

そうですね。ファッション誌で働いていた時に思いましたが、東側って同じ東京なのになぜかバカにされてるなと思うことも多くて。今は東側に飲みにくる人も多いですが、それが一時的なブームで終わって欲しくない。

マイナス部分を生かす方法を考えた方がいいと思うんです。私も一時期は吉原が地元だと言いにくいなと思ってました 。男性が「あの吉原?」となるので、なんとなく公にしちゃいけないのかなと。

でも、やっぱりそれは嫌だなと思ったんです。歴史もある場所だし、吉原で何が悪いんだよと。それに何かきっかけがあればイメージは転換できるんじゃないかなと。だったら、そのきっかけは自分のブランドにしようと決めたんです。

———岡野さんが吉原のイメージをマイナスからプラスに変えれたきっかけって?

単純に歳だと思います(笑)ババアになったし、もういいんじゃん?小学生じゃあるまいしと。若いと恥ずかしがるのは当たり前。でも大人になって、吉原って成功している人も遊びに来る街だぞ。自慢にもなるぞと思うようになりました。

———それで一人で新吉原を立ち上げた。大変だったのでは?

特殊な街だし、注目を集めたこともあって最初は色々な声をいただきました。でも、私はこの街を盛り上げたい。これからは私一人だけでなく、様々な人が発信して色んな世代にこの街の良さが広がっていけばいいなと思っています。

それに応援してくれてる地元の方も多いです。新聞に掲載された時も「載ってたね!」と近所のおじさんが切抜きをとっておいてくれたり。地元のソープ嬢もブログで応援してくれたり。嬉しいですよね。

———家族や友人の反応はいかがですか?

友人は「やよいちゃん全開だね。また変なことをしてるね」と。公務員の両親も応援してくれています。私は昔から芯が強いタイプなので反対したところで言うことを聞かないと思ってるんだと思います。

%ef%bc%93「新吉原」はデザインから店舗運営まで岡野さんが一人でやっているそう。デザインは春画や友人のイラストをもとにしながら作っているとのこと。

———デザインから店舗運営までお一人なんですね

そうなんです。なので他の場所で催事があるときは店舗を閉めてます。デザインは未経験でしたが春画など古い資料から持ってきてリサイズしたり、切り貼りして作ってます。よく見るとパソコンでデザインすれば出ない線も出てたりして、私の性格のゆるさが出てますよね。でもそういう線もいいんですよね。

それに一人でしている分、コンセプトはブレないです。デザインはシンプルなものが好きですがエロさは必ず入れています。

%ef%bc%94一番人気の手ぬぐい。

f13cc8cf45f576c6d1af-2女性向けにと作った赤い手ぬぐい。赤色にしたのに罪人柄を入れてしまい、全く女性らしくならなかったとのこと。

——— エロさの表現で気をつけていることはありますか?

エロさは前面に出すより、つい笑ってしまうようなユーモアのあるエロにしています。土産物は人から人に渡るので、もらった人がクスッと笑って「これ、何?」となる方がいい。そして土産をもらった人が商品をきっかけにこの土地を訪れるきっかけになってほしいんです。

あとは、おっぱいを見せるか隠すか考えていました。でも今はなんでもネットで見れるし、ましてや春画を見て興奮する人なんていないです。江戸時代はもっと性に対してオープンであっけらかんとしていたと言いますし、それでいいと思うんです。エロは隠すから余計にエロくなるんですよね。

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———ロゴのおっぱいも可愛いですよね。

おっぱいは、赤ちゃんにとっても大事だし、女性のシンボルみたいな部分ですよね。おっぱいってそんなに隠さなきゃいけないのか?おっぱいってそんなに悪いのかな?と。

それに吉原は女の人が頑張ってきた街。ここまでおっぱいが似合う土地ってないですよね。

%ef%bc%97「新吉原」のロゴ。おっぱいが可愛い。ニューヨークのジャーナリストはこのロゴのタトゥーを入れて帰ったそうだ。新吉原団扇 2,160円

 

「新吉原」は、直営店「岡野弥生商店」のほか、ビームスや羽田空港、そして百貨店の催事まで幅ひろい層に対して商品を展開しています。少しエッチなデザインではあるものの女性客も増えているのだとか。

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———どのような方が購入されているんですか?

購入層は意外と広いです。百貨店の催事では高齢の方にも好評でした。春画のようなシャレに気づく方は知識があって、ある程度遊んでいた人が多いんですよね。でもブランドスタート当初は野郎ばかりでしたよ(笑)

スケーターの溜まり場になっている浅草のフウライ堂に商品を置いてもらって、 ESOW氏 がインスタにあげてくれたり、メンズストリート誌が取り上げてくれたりして当初スケーターに広まったんです。そのあとはパンクスに広がって。

でも店舗を作ってからはファッション誌にも取り上げられ女性が増えました。私はついアンダーグラウンドな方へ関心が行きがちですが、こういう商材だからこそ百貨店などきちんとした場所でもやっていきたいと思っています。

%ef%bc%99岡野弥生商店に飾られたスケートボード

——— 直営店もオープンされましたが、「岡野弥生商店」って珍しい名前ですよね。

このあたりは男性のフルネームを名前にしている商店が多く、昔からずっとかっこいいなと思ってたんです。

イギリスに留学してたので日本語の良さにも気づいたのかもしれません。女性で起業する人って会社名をフランス語とかにしたりしますが、しゃべりもしないのに海外の言葉でやるのが嫌で。日本で展開するのに変に海外っぽいものにしたくなかったんです。

このあたりは海外からお越しになる方も多いですが、むしろ海外の人に日本語を覚えて貰えばいいなと。英語の店名にするより、名前が変わっているので一度覚えたら忘れない。それに日本が好きなら日本語も覚えるはずです。だから、あえてこちらから海外に寄せる必要はないと思っています。

———今後の展望は?

新吉原としてはオリジナル商品もですが職人さんとのコラボ商品を増やしたいです。今は桶屋さんやべっ甲屋さんとの商品を出していますが、商品をきっかけに若い人にも伝統工芸品の歴史や文化を知ってもらいたい。

職人の商品は値段が高いとよく言われますが、それだけ手間がかかっているということや、職人が減ってきているという事実も知ってもらえればなと。

%ef%bc%91%ef%bc%91ベッ甲イソガイさんと新吉原のコラボ商品。おなごピアス(21,600円)、おなごかんざし(big 41,040円、small 30,240円)

2ef10fe42d5a3ac47569東京深川で明治20年から120年以上伝統工芸品を作り続けている桶栄さんと新吉原のコラボ商品「小判桶」51,840円

———岡野弥生商店としてはどうですか?

お店の場所をあえて吉原にしなかったんです。女性が立ち寄りにくいし、吉原にいる男性も気をつかうので。でも、このお店から吉原へ人が流れればいいなと思っています。

山谷はバックパッカーが来ているし、浅草は何もしなくても人が来る。そうなると吉原は取り残されます。どうにか存在感を出すためには浅草と同じことをやっても仕方がないので、こんなやり方でもいいんじゃないかなと思っています。

吉原にカストリ書房(遊郭専門書店)さんもできたので周遊コースになればいいですよね。台東区が好きなので、吉原まで行かなくても中心地を外れて少し歩き回るきっかけになれれば嬉しいです。

「遊郭文化をホルマリン漬けにしない」たった一人で「カストリ出版」を立ち上げた理由 – ランドリーガール
———岡野さんありがとうございました。

吉原という歴史ある街を、何より自身が育った街を盛り上げたいとはじめた「新吉原」。変わらないイメージを逆手にとり、自分がきっかけになってやってみる。

冬の終わりに、いつもの風景から抜け出して、いつもと違う「吉原」へ足を伸ばしてみてはいかがでしょうか?

【店舗情報】
岡野弥生商店
・住所:東京都台東区西浅草3−27−10-102
・営業時間:12:00-18:00 不定休
www.shin-yoshiwara.com