私たちは“裸”に対して特別な意味を持ちたがる。一糸まとわぬ姿を撮影した作品はヌード写真と呼ばれ、着飾らないその人自身を写しているにもかかわらず、撮り方、捉え方で色んな意味をもつ。
「あらゆるジェンダーとセクシャリティの定義を祝い、それまで定められていた定義を削ぎ落とし、その瞬間を写した」
「SPEAK EASY」より SARAI MARI
そう語るのはNYを拠点に活動しているフォトグラファー更井真理。NumeroやVOGUEなど国内外のファッション誌で活躍する彼女の2作目となる写真集「SPEAK EASY」がイタリアDAMIANI社から発売された。
彼女が写し出すヌードからは強さや自信を感じる。どのような想いが込められているのか話を聞いた。
「SPEAK EASY」より SARAI MARI
2011年から2016年にかけて撮り下ろした本作は、男と女が社会の中で担うジェンダーの役割に疑問を持っていたことがきっかけだという。
「小さい頃から女の子は女の子らしくしなさいと言われることに全力で対抗してきました。自分がそう願わないのに、どうしてそうならないといけないのか?自由になりたいということではなく、人の物差しにただ乗っからないといけない社会が私には理解できなかった。全てのジェンダーに対し個人個人の思いはそれぞれあります。私はただ個人の素の姿を写真に収めたかった。」
「あらゆるジェンダーとセクシャリティの定義を祝い、それまで定められていた定義を削ぎ落とし、その瞬間を写しました。個人としての価値を何より大切にしてほしいと色んな人に伝えたかった。SPEAK EASYの『被写体』は彼らが持つ(社会的な)『意味』を失います。生々しくすら感じるその人(性)以外、何も写っていません。これが現代。これが、私たちが生きているリアルな社会だと思います。」
「SPEAK EASY」より SARAI MARI
彼女は2010年に初写真集「NAKED」を発売後、ライフワークとしてヌード作品を撮り続けていた。「NAKED」から7年がたった今、彼女は「わかりやすいヌード写真にははっきり言って興味が無くなった」という。
「NAKED」より SARAI MARI
「NAKED」の発売と同時に母になり、生活拠点をNYに移し新しい人たちと仕事を始めた。自身の環境や心境の変化もあり「表面的なヌードでは無くもっと奥深く伝わってくるヌード写真の方が面白い」と感じるようになったのだという。
「『NAKED』を出した時期は人前で脱ぐということ、ヌード撮影に挑むということに度胸みたいなものを見出していましたが、別に大胆に見せることや裸である必要は全くないと思い始めました。表面的な強さにはもう飽きました。もっと心理的強さや心情に興味が湧いたんです。そっちの方がよほどセクシャリティとして強いと感じました。」
「NAKED」より SARAI MARI
裸である必要はないという彼女の作品『SPEAK EASY』には男女のヌード写真がある。ただ、それらのヌード写真からは性的なイメージやエロという側面は感じない。
「人は服という鎧を脱いだ時に素の人間になることを躊躇し、いつもとは違う面を出す。」と彼女は言う。裸自体ではなく、裸になるという行為から被写体の個性を改めて捉え直しているのかもしれない。
「SPEAK EASY」より SARAI MARI
これからも作品を撮り続けていくという彼女に今後の挑戦について尋ねた。「SPEAK EASYを出す時に日本の出版社からも共同出版の話がありました。ただ、日本盤だと写真のすり替えや再確認、ぼかしを入れる必要があるかもなど沢山の問題があり、結局DAMIANI社一本で出版し思いのままに作りました。でも今度は挑戦の意味も込めて日本から出すのもいいなと考えています。」
彼女とともに変化していくこれからの作品、そして日本の出版社での発売も期待したい。
最後に日本の女性に向けてメッセージをもらった。
「いつの時も夢を持って。大きな夢を持って。好奇心を忘れないで。」
SARAI MARI
『SPEAK EASY』
出版社/DAMIANI
価格/6,500円