日本での婚活をやめた。フランスには自分らしさという孤独があった。

フランスでラブジャーナリストとして活動する中村綾花さん。自分の本音を聞けなくなっていませんか?
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自分らしさを知っている人はどれくらいいるのだろうか?

多様な生き方や、多様な価値観が尊重される社会を望む一方でこう思うこともある。本当に自由な選択ができる社会になった時に、私たちは、自分はこうありたいと自分なりの選択ができるのか。

「他者」が強い日本と「個人」が強いフランス。今回から数回に渡りフランス在住の女性へのインタビューをお届けします。

「私もこのままでいいんだと思えた。でも次の怖さがあった」

そう語るのは、フランス在住のラブジャーナリスト中村綾花さん。

大学卒業後、テレビの制作会社でアシスタント・ディレクターとして働いた後、R25などでライティングや編集に携わりながら、男女の理解を深めあう「男の子の会」を運営していた彼女。

結婚しなければというプレッシャーで婚活をしていたが、日本でなかなか結婚できないことに絶望し、2010年「世界婚活プロジェクト」として婚活の旅に出た。

ラブジャーナリストとしてアメリカ、バングラデシュ、モロッコなど世界中の恋愛を調査しながら婚活を続け、フランス滞在中に出会った男性と結婚。現在は第一子を育てながら、フランスで執筆活動をしています。

自分の本音を聞くスイッチすら入らない…

「私にとって恋愛は命に関わることなんです…」彼女は恋をすると仕事も手につかないという。つまり極度の恋愛体質なのかと思えば、むしろ恋愛は大の苦手。

告白しようかどうしようか、でも関係が壊れるならこのままの方がいい…考えすぎた結果、手と舌が痺れて病院に駆け込んだこともあった。診断結果は異常なし。何度も思った「愛って、どんだけだよ…」。

30才を目前に焦って突っ走った婚活は全くうまくいかず、「もう日本では無理だ。ならば世界ではどうだろう?」と海外で婚活をはじめた矢先にフランス人の男性と出会い、後に結婚した。

結婚後もフランスでラブジャーナリストの活動をしていくなかで彼女は日々驚かされた。恋愛は人間の本能そのものだと頭では理解していたが、フランス人まるで動物のように本能で生きていると感じた。

「社会的なルールがあっても気にしていないし、自分の都合がいいようにルールを解釈する。だから結婚も一つの形じゃなく事実婚もある。好きな人ができたらその人と一緒になりたいからとすぐ離婚するなんてことも珍しくない」

好きな人ができても結婚しているわけだから自重しないのか?という問いが愚問すぎるほどに彼らは自分に正直だった。「気持ちがないのになんで一緒にいられるの?」誰でもない自分の気持ちが一番なのだ。

フランス語で“私”は“Je”。彼らは、いつも呆れるほどにJe、Je、Je。日本を離れてみて日本人の社会性の大きさを感じた。

「フランスと日本の中間がちょうどいいなと思いますね(笑)日本人はコントロールが効きすぎて本能的なスイッチが入りにくい。子供の頃から、自分がどうしたいかより、社会の中でどうすべきかを調整して生きているから、自分の本音を聞くスイッチすら入らなくなっているのかもしれません」

中村さん自身もそうだった。大学卒業後、福岡から出てきた彼女は、東京で一旗あげなきゃ、ライターとして足場も固めなきゃ、結婚もしなきゃ。気づけば、社会の目が気になっていつも力んで生活をしていた。

「未だに日本に帰ると本能をブロックしてしまいます。日本は人の目を気にしなきゃいけない場所。日本にいると、人と会うにも化粧しなきゃ、何分前に着かなきゃと、知らないうちに『何々しなければ』が襲いかかってくるんです」

最後は一人だから、人を愛してシェアをする

良くも悪くも、協調の国である日本は自分以外の“みんな”の力が強く感じる。ただ、少しずつ、みんなが良いとしてきた定番が壊れ始めている。みんながした方がいい結婚や就職。でも、皆がみんなに疑問を持ちはじめ、多様化が問われはじめた。

“みんな”で育った私たちは“私”としての生活をはじめれるのだろうか?

「これまでの日本では、みんなと同じレールを走るのがなんか苦しいんだけど、何が苦しいのかわからない状態だった。それがこの1、2年で、みんなと一緒にしなきゃいけないことが苦しかったんだ、と気づきはじめてる人が増えていると感じます」

「とはいえ、『みんなと一緒じゃなくて、自分なりに生活するってどうすればいいんだろう?』というのがこれからの疑問や悩みとして出てくるのかもしれない」

「私も、30年間、いい人生のためには、婚活、結婚しなきゃと生きてきましたが、初めてフランスでそんなことをしなくてもいいと実感しました。だけど、それはそれで別の怖さが生まれたんです。これからはすべて自分でどうやって生きるかを、自分で考えて自分で選択しなきゃいけないんだと」

自分で自分のことを決める不安、自信のなさ。 彼女はラブジャーナリストとしてパリジャンへインタビューすることで、それを少しずつ克服していった。

パリジャンの答えは決して同じじゃない。そして彼らは「私は正しい。自分はこれでいいんだ」と言う。極端に異なる彼らの答えが彼女を安堵させた。こういう生き方もあるんだな、じゃあ私はこうしてみようかな。彼女はさまざまな意見を持ったパリジャンたちに出会い、インタビューを通して少しずつ自分のスタイルを見つけていった。

正直、わがまますぎると感じるほどに”私”を伝えるフランス人は自己肯定感にあふれている。その一方で、彼らにはいつも孤独感がある。

最後は一人で孤独だということをわかっている人が多いと感じるんです。人は所詮一人。だからこそ自分の意見を持つ。日本の場合は、孤独は孤独死とか怖くてネガティブなイメージですが、フランスでは孤独は怖がるものではなく、人間とはそういうものだと理解している人が多いなって」

「彼らに話を聞いていると、よく『シェアする』と表現します。どういう意味かなと思っていましたが、個で生きる社会だからこそ、誰かと人生の時間を共有することが素晴らしいということなんです。だから彼らはいつも一生懸命愛を探している。愛がどれだけ価値があることかを知っているんです」

スーパーウーマンの成功談より隣の失敗談

でも、日本では自分らしく生きるより、もしかしたら理想のモデルを追う生き方の方が楽だったんじゃないか?

「今、日本の女性たちが『自分は苦しんでいる』と気づき始めたことがまず一歩の前進。つぎに、自分というものと向き合って、自分がどうあれば幸せになれるのか?という自問自答がはじまります」

「これは慣れるまで不安だし時間はかかります。でも、これを習慣化できるようになれば最終的には他人と自分を比べてむやみに苦しくなることも減るし、楽になるんですよ」

「私はよく周りの人に、もっとあなたの話を聞かせてと伝えます。日本人は自分のことを話さない人が多い。でも、じっくり話を聞いてみると人の数だけ十人十色の人生があることがわかります。話を聞けば、自分も、母親も、上司も同僚も全員違うということが見えてくるんです」

不思議と今では彼女が日本に帰るたびに恋愛話をしてくれる女性たちがいる。4、50代の先輩は、結婚の失敗談もしてくれる。

「結婚しないと不幸になる!」と思い込んで苦しんでいた当時の彼女が聞いていたら、「な〜んだ、結婚にも色々あって、人それぞれなんだな」とも思えたろう。

きっと私たちには女性誌のインタビューに出てくるようなスーパーウーマンの成功談より、身近な人たちの失敗談こそが大事なのかもしれない。

「自分がすごく苦しかったから、同じ状況の人が抜け出して楽になってほしい」だから彼女は今日も“私”が大好きなパリジャンの十人十色な恋愛を聞いている。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA中村さん/iraiza