わずか10秒。死と隣り合わせの真空パック撮影に挑む理由 ハルインタビュー(後編)

10秒という限られた時間で二人の愛を切り取るカメラマン ハル。密封され死と隣り合わせの撮影で完成した「FLESH LOVE RETURNS」。作品への想い、これからの挑戦について伺いました。
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カップルを真空パックにして純度の高い「愛」を表現するフォトグラファーハルさん。

前回はハルさんにカップルをバスタブを使用して撮影した「Couple Jam」、真空パック状にして撮影した「Flesh Love」「雑乱」についてお話しいただきました。

もっともっとくっついちゃえ!!異色カメラマンが真空パックで伝える愛 ハルインタビュー – ランドリーガール

 

 

今回は、先日発売された新作「FLESH LOVE RETURNS」について、そしてこれからの展望についてお話しいただきます。

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「FLESH LOVE RETURNS」より。2人と1匹の目。コントラストが美しいです。

 

掃除機担いで世界のカップルを密封撮影し続けた男

「FLESH LOVE RETURNS」の巻末にAKVセイントヨースト美術大学教授バス・ウイルダース氏のコメントがあります。「アダムとイブのごとく」と記されたその文章には、決して同じではなく異なる二人が混じり合うという脆いバランス、そのバランスから見えてくる自身の姿や乗り越えれるものがあると書かれています。そして、その脆いバランスを二人の愛が生まれた場所で「一瞬」という形で切り取ったものがこの作品であると。

「FLESH LOVE RETURNS」のその不思議なバランスで出来上がった作品を見ると、この一瞬に自分なら何を入れて誰と入りたいか?そんなことをふと感じてしまいます。

ハルさんは本作を「最高の場所で空気さえも無い100%ピュアにパッキングされ一体化した二人。それは究極に密度の濃いポートレート」だといいます。

本作はスタジオ撮影ではなくカップルが初めてデートした場所など二人にとって重要な場所でカップルを真空パックにして撮影。国内だけでなくオランダ、ベルギー、香港でも撮影を行い、現地のカップルも参加しています。

外で圧縮袋を使用して二人を密封するだけでも大変なのに、撮影は大丈夫だったのでしょうか?

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海外だろうがどこだろうが、撮影には掃除機と撮影機材(おおよそ30kg)を背負って挑んでいます。

「今はバッテリー付きのポータブル掃除機を用意していますが、当初はAC電源がないと使えない掃除機だったので各所から電源を借りていました。アムステルダムの撮影でカップルから運河で撮影したいと提案があって、当初のカフェからは電源コードが届かず運河近くのビルの方に事情を説明して電源を貸してもらいました。でも運河でカップルを圧縮袋に入れ撮影している異様な光景だったので、近くのパブからは野次が飛んだり、現地のメディアが取材に来たりしました。」

 

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アムステルダムでの撮影の様子。圧縮袋を開けてもらった時のモデルの方の表情が大変さを物語っています。

「ジャングルジムでの撮影では、ジャングルジムの外側から掃除機のノズルを入れて空気を抜いて急いで撮影をした後、開ける時間もないのでナイフで袋を切って開けました」

26_ryotomomiこちらの二人はジャングルジムで。

くっつけばくっつくほど離れていく

写真集には59組のカップルが収められています。その中でも特に印象に残っている2人とは?

「どの方々も印象に残っていますが、ドイツのカップルを撮影したのですが、この二人は僕の作品を以前から見てくださってて撮影して欲しいと撮影のためだけにドイツから日本にやってきました。2人の思い出の場所で撮影するというコンセプトだったので、滞在最終日に思い出に残った場所で撮影することにしました。」

 

18_eikemelanie撮影のためだけにドイツから東京にやってきた2人。彼らが撮影場所に選んだのは東京で宿泊したホテル。

ファンが海外から駆けつけるほど海外の評価も高いハルさんの作品。海外と日本で評価の違いはあるのでしょうか?

「海外でいただく感想の方が発想が自由ですね。オランダでは『くっつけばくっつくほど二人は離れていくんじゃないか?』と言われました。どういう意味なのかまでは話せませんでしたが、最後までくっついた先は離れるしかないんじゃないか?体のくっつきと心のくっつきは違うんじゃないか?などいろんな捉え方ができますよね。自分自身もくっついても限界はあるんじゃないか?とわかる部分はあります。くっついても結局は一つになれないというか、SEXしても、せいぜいその部分が入るくらいであって、それ以上はくっつけないですからね。」

 

12_kohmeykeiko「FLESH LOVE RETURNS」より

作品の良し悪しは社会と切り離して考える

くっついた後の切なさを感じつつも、これ以上ないくらいカップルをくっつけていくハルさん。でも不思議といやらしさはあまり感じません。とはいえ、見る人によって服を着ていてもいやらしいと思ったり、裸の作品でもそう見えないと言う人もいるそう。ハルさん自身はアートとワイセツの境界線を考えて撮影をしているのでしょうか。

「いや気にしてないですね。自分が撮影する時は視覚的に面白い絵になっているかどうかだけです。いやらしく見えるかどうかというような意識は全くないですね。

『わいせつ』っていう価値観は社会的なものとの結びつきによって生まれているものだと思うんですよね。でも僕は、作品においては社会と関係がないところで良し悪しを判断して撮影しています。」

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「例えば、看板の撮影をしている時に、その看板に文字が書いてあったとしても僕は撮影時にその文字は全く気にしていないし、文字に意味を見出してないんです。『車』と書いてある看板を撮影する時は『車』という意味を持って撮影しているのではなくて、『車』という文字の形がかっこいいから撮影しているんです。

だから、一つの写真だけを見て『わいせつ』かどうかを判断するというのは難しいですよね。乳首が見えているからわいせつで、見えてないからわいせつじゃないというのも。」

「作品作りにおいての良し悪しは一切社会や性的な部分と切り離して考えていますが、逆に自分自身が性的に興奮するのは社会や自分と関わっているところで初めて感じるんだと思います。」

 

誰でもできるけどバカバカしくて誰もしないことを

くっつけることで、二人の愛の強さを表現しているハルさん。そもそもなぜ「愛」を撮り続けているのだろうか

「当初、カップル写真を撮るなら密着すればするほど視覚的に一番面白いと思ったんです。それと同時に密着するということは愛を視覚化する事でもあるなと。そう考えていくと世の中の出来事って、経済、政治、戦争も全部『愛』を動機に動いているなと思えてきたんです。そしたらカップルたちを密着させて『愛』を撮影することは人生を掛けて取り組む価値がある壮大なテーマなんじゃないかなと。」

 

34_ayakoken「FLESH LOVE RETURNS」より

今後も密着という形で自分なりの「愛」を撮影し続けるとのことですが一体どこまでくっつけていくのでしょうか。さすがにこれ以上はもうくっつけることは出来ないんじゃないでしょうか・・・

「くっつけばくっつくほど二人の愛の強さが表現できると思っているので、今後もとにかく密着させて撮影したいと思ってます。

バスタブも圧縮袋も二人をくっつけたいから、そのための手段として選んだので圧縮袋よりくっつける方法はないかなと常に考えています。ただこの圧縮袋のシリーズも好評なので、圧縮袋を使っていろんなバリエーションの写真も撮りたいなと思っています」

実際に他の方法でくっつけることはできるのでしょうか。

「来年4月に別の手法で撮影する実験的な作品を発表予定です。撮影を始めなきゃいけないんですが、想定より規模が大きくなりすぎているため準備に時間がかかっています(笑)

やろうと思えば誰でもできるけど、誰もやらないことをやりたいと思っています。作品を見る人って自分だったらやらないようなことをバカバカしくも真面目にやっている人に感動するんじゃないかなと思っていて。だからバカバカしい規模が大きければ大きいほど感動するんじゃないかなと。」

来年2月には「FLESH LOVE RETURNS」の個展、そして4月には新たな手法で撮影した作品を発表するとのことなので今から楽しみですね。

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事務所の屋上から。

最後にこれから「FLESH LOVE RETURNS」をご覧になる方へメッセージをいただきました。

「1枚1枚にいろんな情報が詰まっています。だからカップルが真空パックされているというインパクトだけで見ずに、そこに写っている二人の関係性を背景や細かい部分から感じ取ってもらえたらなと思います。

あとは、ご協力いただいたモデルの方達に。この作品に限らずこれまでに450組ほどのカップルを撮影してきているんですが、どの写真も自分の姿を美しく残すための撮影じゃないにもかかわらず善意だけで僕の作品に協力してくれてるんです。だから、そんなモデルの方々に感謝の気持ちを何よりも伝えたいです。」

ハルさん、ありがとうございました。

「FLESH LOVE RETURNS」真空のピュアな愛。みなさんは誰と一緒に入りたいですか?

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これからの挑戦も楽しみにしています!

これまでの作品を展示した個展「雑乱」は五反田・Cafe terrasse MIMOSAで開催中です。

【個展概要】
PHOTOGRAPHER HAL  『雑乱』
会期:10月4日〜11月13日
時間:火-金 11:30 – 15:00 / 18:00 – 23:00 (last order 22:30)
土日・祝日12:00 – 16:00 (last order 15:30) / 18:00 – 22:00 (last order 21:30)
会場:Cafe terrasse MIMOSA http://exposure.mimoza.jp
東京都品川区西五反田3-8-3 町原ビル 1F

【写真集「FLESH LOVE RETURNS」】

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発売日:発売中
出版社:冬青社