もっともっとくっついちゃえ!!異色カメラマンが真空パックで伝える愛 ハルインタビュー

布団圧縮袋やバスタブでカップルをくっつけて撮影するカメラマンハルさん。独特な世界観で国内外で注目を集めている彼に作品作りのルーツを聞いてきました。
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2人の間に距離はいらない。もう空気さえもいらない。もっと、もっと近づいてほしい。

バスタブや布団圧縮袋など、独特な手法で被写体の関係性と愛を撮り続けているカメラマンがいます。

まずはこちらをご覧ください。

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くっついている。

 

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密着している。

 

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もうこれ以上近づけないってくらい密着している。

 

「いつの日か、自分も愛する人を見つけてこの中に入りたい。 」

 

先日発売された写真集「FLESH LOVE RETURNS」でそう語るのは、フォトグラファーハルさん。カップルを布団圧縮袋やバスタブを使って奇抜な構図で撮影し、海外での展示やカンヌライオン受賞など国内外で注目されているカメラマンです。

今回の「性とアート」ではそんな彼に、なぜカップルをそんなにくっつけちゃうのか?作品を撮りつづける理由や撮影の裏側を聞きました。それではハルさんを覗いてみましょう。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERAカメラマン ハルさん。事務所の屋上で。 

 

二人の距離を縮めれば”愛”は視覚化できる

ハルさんの写真といえば「2人」の面白さ。なんとも言えないその構図や異質な交わり方につい食い入るように作品を見てしまいます。そんな作品の原点はどこにあるのでしょうか?

「大学を卒業して会社で働き始めて、日中に撮影ができなくなったので夜に撮影をするようになりました。そしたら夜って風景よりも圧倒的に“人”が面白いと気付いて。だからクラブやライブイベント、ゴールデン街など人が集まる場所で撮影をしはじめたんです。」

 

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「Pinky & Killer」より

 

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「Pinky & Killer」より

 

「すると今度は、1人でいる人よりもカップルの方が面白いと気付きました。喧嘩してたり、イチャイチャしてたり2人でいる人たちの方がたくさんドラマがあるんです。喜怒哀楽が出てくるんですよね。」

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「PINKY & KILLER DX」より

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「PINKY & KILLER DX」より

 

そしてひたすらカップルの撮影を続けたハルさん。今度は二人の距離感について気付きます。

「カップル撮影は、いかに密着しているように見えるかが肝だなと。心の底で何を思っているかはわからないけれど、握手しているよりハグ、ハグしているよりキスしている方が二人の愛が深まっているように見えますよね。なので二人の距離を縮めることで愛の深さを視覚化できないかなと思いはじめました。」

撮影時にいかにして二人の距離を縮めるか。2009年に発表した「Couple Jam」ではバスタブを使って二人の距離を縮めています。

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「Couple Jam」より。180人のカップルに協力いただいたとのこと。

 

「大塚のラブホテルにホタテの貝殻の形をした金ラメの風呂があって、そこで撮影した際にバスタブでカップルを撮り続けたら見えてくるものがあるんじゃないかなと思ったのがきっかけです。バスタブに入ることで本人たちの意思に反して二人でくっつかざるをえない状況になるので、それを撮影するのは面白いなと。バスタブの写真集もなかったですし、どうせやるなら誰もやったことがない撮影をしたいなと」

 

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「Couple Jam」より。

撮影場所はカップルの家のバスタブ。狭いバスタブでパズルのように二人が絡み合うよう関節の曲げ方などを作っていきます。ハルさん自身が不自然な構図や表情が好きとのことで最後の一押しでモデルの身体を不自然に曲げてもらったりするそうです。

そのため身体的にも撮影時間は10秒のみ。撮影するハルさんもバスタブの縁につま先で立ち、片手を壁につけて体を支えて撮影しているため10秒が限界とのこと。なので、シャッターを切りはじめる前の準備は念入りにしています。

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「Couple Jam」より

「準備が一番時間かかりますよ。僕がバスマジックリンで30分ほど風呂場を磨きあげることからスタートです。友達にトイレを貸すことはあってもお風呂を貸すことってあまりないのでバスタブってかなり無防備な場所なんですよね。なのできちんと磨き上げて、その後、バスタブに入る前にリビングなど平面で撮影する際のポーズや構図をリハーサルしてからバスタブで撮影します。」

 

撮影時間10秒。息すらできないほどに密着した二人

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「Flesh Love」より。1.5m×1mの市販品の布団圧縮袋に入ってます

 

2011年には「Flesh Love」を発表。バスタブの次にハルさんが選んだのは布団圧縮袋にカップルを入れ真空パックした状態で撮影するというもの。インパクトのある作品に日本だけでなく海外からも注目を集めます。なぜ布団圧縮袋だったのでしょうか?

「前作のバスタブって必然的に二人がくっついてしまう場所ということもですが、どこの家にもバスタブはあるので写真を見た人がバスタブの狭さを実感できるのが面白さの一つだったんです。なので、次も日常生活品で二人をくっつけたいと考えて出てきたのが圧縮袋だったんです」

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「Flesh Love」より

 

圧縮袋で二人を真空パックにして撮影・・・真空パック状態にされたことがないので想像しがたいですが、これも撮影が大変そうです。

「密封されると息は出来ないので死と隣り合わせの撮影です。モデルの方も圧縮袋で密封された経験はないので、肺の中の空気はどうなっちゃうんだろうとか、わからないことも多くて怖いと感じる人がほとんどでした。

これも撮影時間は10秒が限界です。僕も圧縮袋に入ってテストをしましたが10秒であればどんな人でも耐えられるとわかりました。空気を抜ききるタイミングで圧縮袋の中で息ができなくなるので、そこからカウントダウンを始め10秒で撮影を終えるようにしています。

撮影は万が一のことがあってはならないので、アシスタントとして袋を開ける係を1人つけ、酸素マスクと頭を冷やすジェルなども用意しています。」

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「Flesh Love」撮影風景

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「Flesh Love」より。モデルを体験した子によると耳の中も密封になり「ピッ」となるそうです。

 

「Flesh Love」は各所で話題となり、2014年にはカップルと一緒にカップルの身の回りにあるものも一緒に真空パックする「雑乱」を発表。

 

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「雑乱」より。カップルの思い出の品が一緒に密封されています。

スタジオにカップルが入れたいものを持ち込んでもらい一緒に真空パックする。持ち込める数は限られているため、二人が厳選して選んだモノと一緒にパックされている写真からはカップルの個性が色濃く映し出されています。

「一緒にパックされた物等はカップルの共通言語。一緒に密着されるという事は新たなカップルの愛の表現の形である。空気を抜く過程で計算外の動きをするため偶然性が極めて高い。その様子は一見雜乱としている様だが自然界の仕組みのように必然性と秩序がある。2人の雜乱とした小宇宙なのである。」(「雑乱」より抜粋)

 

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「雑乱」より。お酒が好きな二人なのかな。

 

将来的には、写真集の最後のページにハルさん自身が真空パックされて写っているのが理想だなあと語るハルさん。しかしながら、シャッターを切ることよりも袋を閉じて撮影してもらうまでが大変なのでなかなか自分がモデルになれないそうです。

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「撮影するのは10秒程度ですが、この作品って撮影というよりもモニュメントを作ったり粘土細工をしている感覚なんです。圧縮袋の空気を抜きながら二人がより密着するようにビニールをずらしたり、圧縮で表情がつってしまったところを引っ張って直したりしてるんです。」

 

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2012年ブラジルでの撮影風景

 

「特に『雑乱』のシリーズはかなり大きな圧縮袋を使っているため、空気を抜いていくと地殻変動のように物が集まっていくのでビニールを引っ張ってモノを離したり調整しながら空気を抜いていく必要があります。

袋に入る前に配置や構図を決めてモデルの方に袋に入ってもらいますが、結局、調整したりするので空気を抜き始める前に同じポーズのまま1時間待ってもらったりしました。モデルの方にはかなりの負担をかけてしまったと思います。」

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「雑乱」より。こちらは自転車好きな二人ですね。自転車を体の上にのっけているだけでも相当な体力が必要です。

かなりの負担がかかっているものの、モデルの方からは出来上がった作品を見て喜びの声が届いているとのこと。こんな体験なかなかできないということもですが、不思議な「愛」を帯びた自分たちの姿に大変な体験をした人すらも作品のファンになってしまうのかもしれませんね。

そして、「雑乱」を経てハルさんがたどり着いたのが、カップルの思い出の場所で真空パック撮影をするという「FLESH LOVE RETURNS」です。次回(後編)は新作「FLESH LOVE RETURNS」についてです。

なおハルさんのこれまでの作品を展示した個展「雑乱」が10月4日から五反田・MIMOSAで開催されます。秋の始まりに密封愛を体感してみては?

 

【個展概要】
PHOTOGRAPHER HAL  『雑乱』
会期:10月4日〜11月13日
時間:火-金 11:30 – 15:00 / 18:00 – 23:00 (last order 22:30)
土日・祝日12:00 – 16:00 (last order 15:30) / 18:00 – 22:00 (last order 21:30)
会場:Cafe terrasse MIMOSA http://exposure.mimoza.jp
東京都品川区西五反田3-8-3 町原ビル 1F

【写真集「FLESH LOVE RETURNS」】
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発売日:発売中
出版社:冬青社

わずか10秒。死と隣り合わせの真空パック撮影に挑む理由 ハルインタビュー(後編) – ランドリーガール