映画の制作・配給の老舗「日活」が制作していた成人向け映画「日活ロマンポルノ」。ご覧になったことがない人も、名前だけは聞いたことがあるのではないでしょうか?
今回は、7月5日に、「ビッチの触り方」や「男をこじらせる前に」などの著者としても知られる湯山玲子さんを講師に招き開催された日活ロマンポルノ鑑賞会「TOmagazine企画 ~iroha夜の女学院vol.2~ジャパンSMの金字塔~」のレポートをお届けします。
■日活が再生させる「日活ロマンポルノ」の歴史
さてさて、イベントレポートの前に、なぜ日活がそのような作品を作っていたのか?「日活ロマンポルノ」の誕生を簡単に振り返ってみましょう。
日 活は、 1912年に「日本活動フィルム株式會社」として創業し、その後、時代劇の名門映画会社として時代を築きます。その後、1942年には、業績の低迷等の理 由から映画製作事業から一旦撤退するも、1945年に「日活株式会社」に社名を変更し映画製作を再開。三国連太郎や森繁久彌といった名だたる名俳優ととも に時代劇、文芸映画を展開するほか、当時の若手俳優であった、石原裕次郎、浅岡ルリ子などを起用して業績を堅調に伸ばします。
しかし、1960年「テレビ」時代の到来をうけ、業績不振により採算が折り合わず映画の制作を一時中止します。そんな時代に生まれたのが「日活ロマンポルノ」です。
『おくりびと』や『リング』の監督も日活ロマンポルノ出身!そしてメディア普及の裏にはエロがあった。
これまでの路線とは大きく異なる分野ですが、会社存続のため採算面を考慮し、低予算で作れるロマンポルノの制作を決断。しかしながら、「日活ロマンポルノ」 は、低予算、短期量産型の環境下ではあったもの、一定の規定(上映時間70分程度、10分に1回の絡みを盛り込む、モザイク等をいれないでいいような工夫 をする)を守れば自由な作風が認められていたこともあり、独自の芸術性を発揮した作品が数多く生み出され、若手監督の登竜門となっていきました。
ちなみに、映画『おくりびと』の滝田洋二郎監督や、映画『リング』の中田秀夫監督なども日活ロマンポルノ出身の映画監督だそうです。
http://www.nikkatsu-romanporno.com/
しかしながら、1980年代に次は「ビデオ」時代が到来し、「アダルトビデオ」が普及。映画館へ足を運ぶ人は激減し、1988年に「日活ロマンポルノ」は終焉を迎えました。湯山さんは、このようなメディアの移り変わりについて、
「メディアの発達の陰には必ずエロがあるんですよ。当時、30万やら50万のビデオデッキをなんでお父さんたちが買っていたか?別にローマの休日をみたいわけではないですよ!ポルノを見たかったからですね(笑)。インターネットも同じですよね。」
と。やはりエロは技術を進化・普及させていくのですね。
とはいえ、当時終焉を迎えたものの、2012年には日活100周年を記念して「生きつづけるロマンポルノ」として特別上映が開催され、2015年5月には、28年ぶりに完全オリジナルの「日活ロマンポルノ」の制作(2016年公開予定)が発表されました。
現代によみがえる「日活ロマンポルノ」楽しみですね。
■日本SMの金字塔「夕顔婦人」は、笑いと苦痛の連続
ではでは、日活ロマンポルノ鑑賞会のイベントレポートへ。今回で第二回目となる「iroha夜の女学院」。「日活ロマンポルノ」の楽しみ方を講義いただいた 湯山さんのコメントをもとにレポートしていきます。今回も前回同様に、会場は満員御礼。約30名の女性(これがまたびっくりするくらい美人)が集っていま した。
ちなみに前回は『昼下がりの情事、古都曼陀羅』を鑑賞しました。
女性30名で日活ロマンポルノ鑑賞会!「ダメよ」と言いながら…の世界を湯山玲子さんの解説とともに体験 |AM
今回の作品は団鬼六作、名女優・谷ナオミ主演の『夕顔夫人』(1976年)です。
作品は、自堕落な生活をする男・木崎(鶴岡修)が、己の欲望と劣等心から、憧れの女性華道の家元・島原夢路(谷ナオミ)や友人の御曹司・堀口(中丸信)の婚約者である由利子(宮井えりな)を騙して犯し、山奥の“調教小屋”で美人姉妹を調教しつづけるというもの。
個 人的な見所としては、まずは低予算ではあるものの、カメラワークをはじめ日活の職人技が注ぎ込まれている点。ポルノ映画といえど、質が高いです。そして、 日本のSMを確立した作品とだけあって、縄をはじめとして、「まじありえないから!」というような、ありとあらゆる「SM」が繰り広げられる点。もはや、 何が「S」で何が「M」なのか?といった疑問がわいてきます。鑑賞中は、なかなか爽快な気分にはなれないものの、鑑賞後にはなぜか達成感を感じてしまう不 思議な感覚でございました。
ちなみに会場では、上映中に感情移入しすぎた女性が気持ち悪くなってしまい席で倒れてしまうアクシデントも発生。たしかに単純なSM映画と思って鑑賞すると、みぞおちを殴られた気分になるかもしれませんね。
そして、もう一つの醍醐味は”笑い”です。前回の作品同様に、あまりに滑稽な過剰演出において、思わず笑い声がもれてしまうシーンが。調教シーンだと「マン コ筆(女性器に筆をいれて、【女】という字をかかせてました)」「マンコ生け花(女性をさかさまに吊るして女性器に大量の生け花をしていました)」「調教 されてる女たちを横目に、めしにがっつく夫婦の様子(なぜかゴハンがおいしそうに見えました)」は必見です。
「自我を崩壊する」日本男性が知らぬ間に実践している日本「SM」の世界とは?
湯山さんによると、SMの世界は、各国の歴史と紐づいているが、日本では歌舞伎の作品の中にもそのような描写があるとのこと。
「たとえば『忠臣蔵』にでてくる『忠義』なんかは、まさにこの世界ですよね。主君のために命を差し出す。現代の男性社員にも忠義は根付いており、いまだに その考えがあるよね。本作でも、『自』をはぎ取り、破壊すことで支配していくというグロテスクな行為が描かれていたけど、なぜか日本男性は社会において進んでそれをしているんですよね。つまり、自我を破壊しないと出世できないということですね。」とコメント。日本の男性はSMを知らぬ間に体現しているんですね・・・。
また、SMの怖さについても提言。本作では、気の強く身分も高い女性が汚され、支配されていくのですが、最終的には、まるで女性が望んでいるかのように過剰適応していく様が描かれています。
「人間は、そこでしか生きていけないと思ってしまうと、過剰適用していくんです。SMが好きな女性も多いが、簡単に手は出しちゃいけないよ。SMプレイならいいが、本当のSM(奴隷契約)などしてしまうと、自我を取り戻せなくなってしまうから本当に気をつけて」
みなさん気をつけましょうね。
「してやったり」を学べ!谷ナオミの表情に見るSMのセーフティライン
次は本作 の登場人物に関して。「団鬼六は、女性格差を描くのがうまいんですよ。彼の作品にはズベ公(戦後の女性の別称で、不良少女や素行の悪い女性のこと)が、か ならず黒い下着で胸がない女として描かれているんですよね。彼女たち(ズベ公)の立場から考えれば、もしかすると、ズベ公達は自立して、人生を楽しんでい たかもしれないけど、当時の男性から、結婚の相手として見られることはなかったんですよね。
やはり、男性は稼げなくても、処女で夫に尽くしてくれる、いわゆる吉永小百合さんが演じるような役柄が求められているわけです。まあ、つまり、この会場に いる私たちは全員ズベ公ですね!(笑)そういった文化や考え方をロマンポルノ作品から読み解くのもいいと思いますよ。」と一味違った日活ロマンポルノの楽 しみ方を提案。
そして、登場人物でいえば、会場の誰しもが目を奪われた女優“谷ナオミ”の演技力・表情のすばらしさ。
「本作は、本来であれば悲惨な映像にしかならないSM作品ですが、谷さんは刺激をうけつつ、快感にのたうちまわりながらも、してやったり感が表情からでているんですよね。SとMが逆転する瞬間ですよね。SはMがしてほしいことを先回りしてやってあげてるんです、つまり仕事なわけですよ。結果としてSが一番気を使っているという状況になっているんです(笑)
あとは、彼女の表情はセーフティラインなんですよね。男性は彼女の表情から、まだ攻めても大丈夫だな。と感じることができる。単なる苦痛な表情では、いくらSな男性でも盛り上がらないわけです。」
たしかに、なかなか実践は難しいかもしれませんが、女性なら彼女の表情から学ぶことは多いはず。彼女の表情だけでも本作を見る価値がありそうです。
日活ロマンポルノに出演していた昭和の名女優の今は? – NAVER まとめ
テラスハウスの調教部屋を見てみたい・・・
そして、質疑応答には、来場者の方から湯山さんに「これって本当に男性は興奮するのでしょうか?ひいてしまうんじゃないか?」との質問が。
「これは当時大ヒットでした。ただ、今の男性は違うかもしれないですね。本作で描かれている男性像は、お金の力では勝てない主人公が、性の力で自分より上の人間をねじふせていくというもので、そこに共感する男性がいたわけです。
ただ、今は年収が低かろうがみんなで一緒に仲良くしようっていう時代。テラスハウスだもんね。『みんなでワクワクドキドキしよう!』という、この映画とは 真逆の時代だからねえ。仮にテラハで調教部屋をしたら、どういうものなんだろうね? BBQで肉にタレを塗りあったりとかが調教になるんだろうな・・・同じ人類とは思えないな(笑)」(会場爆笑)
たしかに、テラスハウスの調教部屋は見てみたい気がします。なお、次回のイベントは男性参加もありえるとのことでしたので、まるで調教部屋に紛れ込んでしまったかのように男性がポツンといるかもしれませんね。
そして、最後には、男女の関係において、精神的なパートナー、肉体的、性的パートナー、子供を産むパートナーに分かれていくのではないか?といった問いかけが。
湯山さんからの「これからは、男性の因数分解。愛情の分散投資が大事になってきますよ」との心に刺さる言葉に対して、会場にいた女性全員が深くうなづく異様な光景で幕をしめました。
帰り際、来場者からは早くも3回目を期待しているといった声が続出していました。主催者によると、第三回は秋ごろを予定しているとのこと。
興味のある方は是非足を運んでみてはいかがでしょうか?