「春画は女性が語るべき」江戸時代にもどりつつある女性の感性とは?

大英博物館の春画展も、今回の春画展も女性客が非常に目立っている。そんな状況を見て「春画は女性が語るべき」という主催者の真相は?
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前回、前々回と、「春画展」主催者である浦上さんに春画展開催に至るまでの経緯や、春画の魅力についてお話いただきました。

今回は、浦上さんが「春画展」を通して見えてきた女性の変容についてお話いただきました。

「春画は女性が語るべきなんですよ」

そう語る浦上さんの心はいかに?

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春画は女性が語るべき

―――春画展を開催してみて来場者の方から多くの反響があったと思いますが、実際に開催してみて驚いたことってありますか?

春画展を開催するまで、大体どんな反応があるかわかってるつもりだったんですけど、春画展を一人で見に来ている女性達をみて、実は僕らは何もわかってなかったんじゃないかなと感じましたよ。

大英博物館の春画展も来場者の55%が女性でしたし、今回の展示は統計をとると男女半々くらいらしいですが、若い女性がすごく目立っています。何人かで一緒にお越しになると想定していたんですが、実際は1人で颯爽とやってくるかっこいい女性が多いんです。僕への取材も女性誌が多いし、春画に対しては女性からの関心が高まっているのかなと。だから僕は、これからは春画は女性が語るべきだと思っているんです。

先日開催された『春画のいろは〜一夜限りの春画 Bar〜』でも女性たちが春画を囲んで楽しんでいた

―――「女性は春画が語るべき」ですか。なんだか春画を見ていると女性が性を楽しんでいる様に感じますが、実際に江戸時代の女性たちは性に対して開放的だったんですか?

江戸時代の春画は実におおらかで、SもMも動物との交合もありというくらい何でもありでした。まあ自由というと語弊がありますが、江戸時代には「夜這い」という不思議な文化もありましたしね。

とはいえ、完全に当時の女性たちが開放的だったかというとそうではなくて、基本的には嫁入り前は親に従い、結婚してからは夫に従い、年を取ってからは子供に従うといった儒教的考えがありました。女性はこうあるべきと書かれた貝原益軒の「女大学宝箱」という教訓書もあったんです。

でも春画が面白いのは、月岡雪鼎(つきおかせってい)が、その教訓書を文字って「女大楽宝開(おんなだいらくたからべき)」というパロディーを描いていたんです。「開」っていうのは女性器を表していて、何が言いたいかというと「いやあ、人生は一度だけだから女性も大いに楽しまねば!」ということです。

だから、当時の女性が本当に自由だったかはわからないですが、そういった春画を笑いながら男女ともに楽しめる文化だったということです。

日本文化は、雅(ミヤビ)と俗(ゾク)、両方見ないとモノの実態はわからない

―――実際の生活はともかくみんなで良いも悪いも笑いあえる文化っていいですね。

江戸に限らず日本の文化は表と裏があるんです。雅(ミヤビ)と俗(ゾク)とも言い換えれます。つまり、ちゃんと両方見ないとモノの実態はわからないんですよ。

でも明治政府がこういう表現を検閲弾圧してから、気づいたら日本人は「そっちは見ちゃいけません、こっちしか見せちゃいけません」と非常に窮屈な人間になっちゃったわけです。それが21世紀になった今もまだ残っているんです。

かたや、「セックスは罪である」と日本人に恥ずかしさを教えたはずの欧米人たちは一種の性革命を経て、今や春画を最高のアートと言っています。

だから不思議なことに、大英博物館での春画展のアンケートには「春画を見て日本人感が変わった」「こんなに性に対しておおらかで、ユーモアやウィットがある人たちだと思わなかった」という意見がいっぱいありました。日本人は、何か生真面目で、融通のきかない人たちだと思われているんでしょうね。なのに春画を見るとあまりにも自由だから驚くんです。

―――そう考えると、現代女性が江戸時代の開放的な感覚に少しづつ戻っているということなのでしょうか?

それはありますね。少なくとも男性よりも元気ですよね。逆に男の方は・・・・まあ、だらしないかもしれませんね(笑)

そういえば、今回の展示で女性によっては「春画は見たいけど、春画を見ている自分を見られるのは恥ずかしい」と思う人もいるかもしれないからレディースデーを作りましょうという声もあったんです。でも実際に蓋をあけたら女性一人で堂々と見に来る人も多く、むしろ、逆にメンズデーを作った方がいいのじゃないかという意見が出ました。男性の方が恥ずかしがっているので、レディースデーより流行るんじゃないかって。

最近の女性はかっこいいと語る浦上さん

春画は火事にも効果的・・・!?

―――女性の方がある種図太くなってるんですかね。

まあ、女性でも様々な方がいらっしゃいますからね。江戸時代には春画は嫁入り道具に持たせたり、縁起物でした。武士にとっては護守として戦いに行く際に忍ばせていたりね。あと、火よけとしても役立ったようですよ。

―――火よけですか??

京都が大火になったときに、月岡雪鼎の春画が置いてある蔵だけ燃えなかったらしく、これはいい火除けのお守りとして春画が飛ぶように売れたという話が残っているんですよ。で、なぜ火事に効くかというと、それは「濡れるから」といわれています。

出典: www.eiseibunko.com

月岡雪鼎「四季画巻

―――うまいですね。

あ、これ僕がいったわけじゃないですからね。つまりね、春画って洒落なんですよ。そういうことが理解できない人はダサいんですよ。自分の中のユーモアとの戦いですよ。
それに僕は春画は「うつにも効く」と思ってるんですよ。仕事に根を詰めすぎたとしても、春画を見るとなんか気分が晴れる。ほんとアホなことがいっぱい書いてあるんですよ。そういうおおらかなものを見て怒る人っていないでしょ?

昔、武家の家で仕事を終えた人に春画を見せて「どうぞこれでお疲れをいやしてください」といったことが文献に残っています。おもてなしの文化の一つですね。

AV監督は春画を見るべき。日本のアダルトビデオは色っぽくない。

―――日本ならではの「おもてなし」ですね。海外からの反響でいうと、春画もさることながら、日本のアダルトビデオはすごい人気らしいですが、なにか通ずる部分ってありますか?

ちょうど2年前くらいに、香港サザビーズで春画を展示したことがあるんですけど、サザビーズのCEOと私のトークショーで、彼が「私は春画は持っていないが、日本のアダルトビデオは持っている。日本のAVはすごい。日本のAV監督は春画を見ているんですか?」と聞いてきたんですよ。

僕は「残念ながらAV関連の知り合いはいないからわからないけど、多分見ていないと思う」って答えたんです。春画を見ていたらもうちょっといい作品を作るんじゃないかと。

日本のAVって画像も女優さんもきれいだし、良い作品もあるかもしれないけど、なぜかちっとも色っぽくないんですよね。綺麗な若い女性がセックスをしているわけだから、そりゃ男性は興奮はすると思うけど、表現もプロセスもワンパターンでね。露骨にやればいいってものじゃあないし、今の若者達はそれで性を学んでいるのかと思うとすごく貧困なことなんじゃないかと思ってしまうんです。

だから僕は、春画を見たら本当の意味でドキッてなるんじゃないかなと思うんです。僕にはそういう才能はないですけども、もし自分にああだこうだ言わせたら絶対もっと面白いAVができると思うよ(笑)

―――「粋なアダルトビデオ」ですね。

粋とか深みとか面白みですよね。現代はなんか少し浅いところでみんな満足しちゃっている気がするんです。だから、春画を見て、いろんな意味で大人になってくれたらいいなあと。歌麿の絵なんかもそうだけど、女性が背中を向けていても色っぽいですよね。

美術を見る人たちの感性を信用すべき、みんなそんなに馬鹿じゃない

―――今回の展覧会をきっかけに今後春画が広がっていくと、さらに賛否両論様々な声があがってくると思いますが、そのあたりはいかがでしょうか?

そうですね。春画が話題になったことで、春画展が色々な場所で開催され、いわゆる下卑な春画展も出てくるんじゃないか?といった意見もあります。その可能性もあると思います。実際、市販されている春画の本にしたって、ただのエログロナンセンスみたいなものもあります。でもそういうのは売れていません。やはりきちんとした作品が載っていてちゃんとした人が解説を書いた本が売れています。

だから僕は美術を見る人たちの感性をもっと信用してもいいと思うんですよ。お客さんはそんなに馬鹿じゃないですよ、きちんと判断できます

―――そういえば今回の展示作品はあくまでも一部ということを聞きましたが、まだまだ見せたい作品や、今回展示を見合わせた作品ってあったんでしょうか?

まだまだ面白い作品はありますよ。今回は一つの最高峰をやったわけですが、見合わせた作品でいうと、あまり激しい絵は今回展示していません。

獣姦の絵でも馬と正面向いてやっているような「バカなことやってんなあ」と笑っちゃう作品がたくさんあります。

葛飾北斎『喜能会之故真通』。各巻の扉絵は美人大首絵になっています

かなりアップの絵もあります。

「喜能会之故真通」最終ページには扉絵で描かれた女性の大開絵(おおつみえ)と呼ばれる女性器のアップの絵でおわる。

―――では最後に2月からは京都での展示もはじまるとのことですが、これから春画展を見に行く方に楽しみ方を教えていただけると。

すべての展覧会がそうだと思いますけど、肩の力をいれずにまずは好きに見たらいいと思います。感じるままでいいんです。で、できたらキャプションとか、解説を読むと、一層理解も深まるし楽しいですよ。

―――浦上さん、ありがとうございました。

江戸時代、身分や階級も男女も関係なく皆が笑って楽しんでいた「春画」。さまざまな場所で「春画はわいせつか?」といった議論がありましたが、気になる方は一度自分の目で本物の春画をご覧になってみてはいかがでしょう?

色彩の美しさや、構図の面白さ、そしてそこに込められた笑いなどWEBや書籍からは伝わらない驚きや楽しさを感じれるはず。そして、余裕があったら会場で春画を見ている人たちを見てみるといいですよ。きっと、あなたと同じようにみんな笑っているはず。

それでは、皆さま2015年も2016年も「春画」に描かれた女性たちのように人生めいっぱい楽しんじゃいましょう。

<京都細見美術館「春画展」概要>
・会場:京都 細見美術館
・会期:2016年2月6日(土) – 4月10日(日)
前期:2月6日(土) – 3月6日(日)、後期:3月8日(火) – 4月10日(日)
・休館日:毎週月曜日(3月21日は開館)
・開館時間:午前10時〜午後6時
・入館料:一般 1,500円(前売:1300円)
・主催:細見美術館、春画展日本開催実行委員会
・アクセス:京都市左京区岡崎最勝寺町6-3
http://www.emuseum.or.jp/access/index.html