来場者19万人越え!「春画展」裏側インタビュー「エロスを否定するアーティストは偽者」

日本で初開催中の「春画展」。「春画展」開催の裏には多くの困難、驚き、喜びがあったといいます。今回は「春画展」主催者の浦上満さんにお話を伺ってきました。
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「僕らはたった2人で大英博物館の『春画展』のスポンサーになったんです。でも、こんなにお客さんが来るなんて開催するまでわからなかった。嬉しい誤算です」

ホッと胸をなでおろしたかのように語るのは、永青文庫で開催している「春画展」主催者であり、美術コレクターの浦上満さん。

世界で話題となった大英博物館での「春画展」から2年を経て、ようやく2015年9月から日本で開催中の「春画展」。日本初開催ということもあり開催前か ら各所で話題となり、先日来場者が19万人を突破したこの展覧会ですが、その舞台裏には様々な問題や葛藤、そして驚きがあったそうです。

今回の「性とアート」では、「春画展」開催に尽力した浦上さんに「春画展」開催までの苦労や舞台裏。そして、春画から見る日本の豊かさ、女性の可能性について伺います。それでは「春画展」を覗いてみましょう。

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日本はとにかく杓子定規。だから僕らは二人でスポンサーになった。

―――今回、初めて日本で春画展を開催することができたとのことですが、海外では大英博物館での展示がかなり話題になっていましたよね。

そうですね。でも、実は春画展って、ヨーロッパでは大英博物館以外にもヘルシンキ、ブリュッセルやバルセロナでも開催していたんですよ。バルセロナはピカ ソ美術館でピカソが集めた春画とピカソの絵を展示してすごい評判でした。ピカソは春画が大好きですごく影響を受けていたんですよ。彼のキュービズムは春画 からきているんじゃないかっていう学者もいるぐらいですよ。

で、その集大成のような形で2013年10月から2014年1月までの3か月間大英博物館で「春画展」が開催されました。大英博物館は会場が混雑しすぎる と入場規制をするんですが、それでも9万人近い来場者だったんです。規制がなかったらもっと人数が増えていたと思います。それに大英博物館の入場料は基本 無料が多いんですが、この展示は有料だったにも関わらず予想の2倍以上の入場者がありました。

―――入場規制をしてその人数ってすごいですね。

規制といえば、大英博物館はじまって以来、16歳未満はダメという規制をしたんですよ。でも向こうの規制って面白くてね、両親や保護者同伴ならば未成年者 でも連れていけるんです。ちなみに、日本では18歳未満禁止なんですけど親同伴でもダメです。何歳までだったらいいんですか?ときいたら1歳までと言われ ました。

2歳だって春画を見たところで、何もわからないじゃないか?って思うんですがね。今回春画展を開催してみて日本はものすごく杓子定規なことが多いということがよくわかりましたよ。

「春画展」主催者・浦上満さん

―――日本での「春画展」開催までかなり時間がかかったと聞いていますが、このプロジェクトはいつからはじまったのですか?

僕は、4年前の2011年から関わってます。当時、大英博物館の日本セクション長のティモシー・クラーク氏らが僕が所蔵している春画作品を見にきたんです けど、その際に彼らから作品を貸してほしいということと同時に、大英博物館が2013年に開催する春画展のスポンサーと日本で巡回展させてくれる会場を探 していると相談されました。

でも、やはり簡単には見つからなくて僕が取締役を務めている美術商の団体が保有している展示スペースを大英博物館に提案したんです。僕らの団体としては大英博物館と組んで展覧会ができるということで役員が全員賛成でしたし、大英からの合意もほぼとれたんです。

その後、大英博物館の公式刊行物にも春画展は東京に巡回しますと告知され、日本で開催することがほぼ決まったんです。ところが、直前になって急遽日本側の一部の人たちがストップをかけてきてね。

―――それはなぜですか?

「警察にしょっぴかれるんじゃないか」と。そんなことあるわけないからと説明をして、再度日本側で決議をとり過半数以上の賛成をえることはできたんです が、僕と一緒にこのプロジェクトを進めている淺木正勝さんも反対者のいる場所で開催したくないということでその会場で開催するのをやめ、どこか他の会場か 美術館を探すことにしたんです。

ただ大英側は、その会場で春画展を実施することで春画展のスポンサーにもなってくれると思っていたので、そこで開催できなくなったことに失望したんです。そこで僕と淺木さんは「大丈夫、約束は守りますよ」と2人で個人スポンサーになることにしたんです。

―――大英博物館のスポンサーに個人でですか?

はい、二人でSHUNGA IN JAPANという名前でLLP(組合)をつくって、そこに2人それぞれのお金をいれて大英博物館に送金したんです。会社からではないそれぞれ個人のお金ですよ。

でも、そしたら彼らはすごく喜んでくれてね。お金のことではなく、この人たちは信義を守る人たちだと。ただ結局、会場探しの方はうまくいかず、20以上の美術館に働きかけたものの最後まで見つからなかったんです。

―――大体断られる理由は同じですか。

当初、東京国立博物館でやるっていう話もあったんですが、やはり難しいと判断されてしまい、すると他の公立美術館も右へならえになってしまったんです。私立の美術館とも交渉してみましたが、私立は私立で春画展は企業イメージが悪くなるとまずいということで断られました。

要するに、開催してはいけない明確な理由はないけれど触らぬ神にたたりなしということですよね。で、そうこうしているうちに大英博物館の春画展は好評のうちに終わってしまい、日本での巡回展は実現しなかったんです。

―――間に合わなかったんですね。

でも、巡回展がなくなってしまったときにティモシー・クラーク氏が「大英博物館での展示は大成功だったが、日本ではできなかった。だから是非2人で日本独自の春画展を立ち上げてやってください。その際は大英博物館が全面的に協力します」と言ってくれたんです。

それで、僕たちは再度会場探しをはじめたんですが、そしたら元首相の細川護煕さんがうちでやりましょうといってくれて開催が決まりました。細川さん自身がアーティストとしての活動もされているので展示会の主旨をご理解いただけたんですよね。

「春画展」の会場となっている永青文庫。

―――それであの記者会見(http://www.nikkei.com/article/DGXMZO87385630Y5A520C1000000/)をお開きになったんですね

そうです。2015年5月に外国特派員協会で記者会見をしたんです。当初、美術館側はそんなに記者がくるなんて思ってなかったので小さな部屋(30人〜 50人)しかおさえていませんでしたが、私は期待も込めて大きな部屋に替えてもらいました。そして、蓋をあけたら150人もの記者が来たんです。

―――話題になっていましたよね。日本で春画展を開催する順風満帆なスタートでしたよね

そうです。でもその後がまた大変だったんですよ。反響が大きかったからかえって警察関係などからプレッシャーがありました。

必ず言われるのが青少年への悪影響です。まず18歳未満は入場禁止にしました。図録も「18歳未満の人の目の届かないところにおいてください」というシールをつけるように指導がありました。

彼らの見解としてはこの本を見た少年が非行にはしったり、劣情を催して少女を暴行してしまったら?ということのようです。春画は25年も前から無修正で出 版されていて何の問題も起きていません。この図録がNGなら、他の春画関係の本すべてに18歳未満禁止のシールを貼らなくてはいけなくなりますよ。

アーティストで、エロスを否定する人がいたらニセもんですよ。

―――困難はあったものの日本で春画展を開催できた要因って何かあるんでしょうか?

結果的になぜ開催できたかというと、春画自体が学術的、芸術的だという裏付けがあるからなんです。大英博物館でも春画展開催の4年前から国費を使って国際 春画研究プロジェクトを立ち上げました。日本では、まだ芸術や学術とそうでないものとの差がわからない人も多いんです。秘宝館と本格的な春画展との差が分 からない人がかなりいると思います。

秘宝館を悪く言うつもりはないんですが、それと比較すること自体が少し違うと思います。だから、禁止や弾圧という歴史もありましたが、同じ春画を見ているのに人によってここまで見方が違うのか?日本って本当は全然近代化してないのでは?という怖さを感じましたね。

―――人によって春画の見方が違うと感じることが他にもあったんですか?

春画展の交通広告もそうでしたね。9月に山手線に交通広告を出したんですけど、当初は、大英博物館でも人気があった喜多川歌麿「歌満くら」を広告デザインにしようとしていたんですがJRからストップがはいってしまって。


出典: www.eiseibunko.com

JR側からNGとなってしまったのは喜多川歌麿「歌満くら」。大英博物館でも人気の絵だったとのこと。

理 由は男女の性を感じさせるかららしいです。アートでは男女の性は当たり前です。むしろアーティストで、エロスを否定する人がいたらニセもんですよ。「私は きれいなお花や風景を描いています」ってそれはそれでいいけど、性への情念がなきゃいい絵なんて描けないですよね。江戸時代の浮世絵師は、ほぼ全員が春画 を描いていますよ。逆に春画専門の絵描きなんていませんでしたからね。


出典: www.eiseibunko.com

最終的に採用された「春画展」の広告デザイン。このチラシも東京国立博物館には置くことを断られたとのこと

―――全員ですか?

そう、全員です。春画を描かせるとその人の腕がわかるし、当たり前のことだったんです。

とくに版画の春画は、大量に刷れるので安価で多く売りさばける。売れてなんぼの商業アートでしたから、魅力ある作品じゃないと売れないので絵師たち必死で 描いたんです。あと春画の凄いところは、庶民も武士階級や僧侶、大名まで階級に関係なく老若男女が楽しく共有できた美術だったということですね。

ヨーロッパでは、王侯貴族や教会がお金を出して芸術家に描かせていたわけだから、階級関係なく楽しめる美術って、世界中からみても珍しいと思います。


出典: www.eiseibunko.com
葛飾北斎「喜能会之故真通」。「富嶽三十六景」の富士山だけでなく女を描いても美しい。

江戸時代の文化を抹殺させたくない

―――様々な困難があったにも関わらず、浦上さんたちが「春画展」開催をあきらめなかったモチベーションはどこにあったんですか?

要は「おかしいじゃないの」ってことですね。実は春画って美術館や大学の所蔵品にもあるんですよ。でもそういうところでも春画の分類や所在がはっきりしていないというのが実情です。要するに継子扱いなんです。

でも春画って江戸時代の文化です。それを抹殺しようというのはおかしな話です。だから春画展の開催を断られたり、そんなことすると捕まるぞと言われると余計にファイトが湧いてきたんです。

―――すごい情熱ですよね。

言われてみればそうですよね。今回の展示に関して、僕も淺木さんもかなりの費用負担を覚悟しなければならなかったんです。実際、自分たちでさえ、何故そこまでしなければいけないのかと思うこともありました。

でも、だからこそ日本のそうそうたる学者や有名な知識人が賛同してくれたんですよね。「あなた方の気持ちはよく分かる。自分たちができることならお手伝いしますよ」って。ほんと嬉しかったですよ。

人間てお金儲けをすることだけが全てじゃないと思うんです、本当に。やってて楽しいというか、一緒に一つの目標にむかってがんばって、そこで連帯感が生ま れ、結果的にすごくいいことができるといいなと思ています。僕らは今回の春画展を「風穴を開ける展覧会」と言っているんですけど、実際に風穴を開けられた ら純粋にうれしいですね。

この展覧会には結局スポンサーがつきませんでしたが、もしスポンサーがついてぽんと1億円払ってくれるよりも、みんなが入場料1500円を払ってたくさん 見に来てくれることの方が素晴らしいということが分かりました。クラウドファンディングも実施しましたが、「たいしたお金はないんですけど」っていって応 援してくれる人がかなりいてくださり本当にうれしかったです。

―――浦上さんたちの行動が色んな人の心を動かしたんですね。

そうだと嬉しいんですが時代性もあるんでしょうね。若い女性たちがたくさん来場されていることもそうした背景があると思います。また数多くのメディアが好 意的に取り上げてくれたことも良かったと思います。自分たちが純粋にいいと思ってやったことが、様々な反応や波紋を起こして話題になっているというのは実 際我々も驚いているんですよ。

次回につづく
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「春画はファンタジー。自分の目を信じてほしい」世界に誇れる春画の魅力とは? – ランドリーガール