「春画はファンタジー。自分の目を信じてほしい」世界に誇れる春画の魅力とは?

今回は「春画展」主催者・浦上さんに世界に誇れる”春画の魅力”について教えていただきました。そう、春画はファンタジーなんですよ。
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2015年9月から開催されている「春画展」。会場に足を運んでみて感じるのは、春画を楽しげに見ている夫婦や、一人で堂々と春画を見ている女性が非常に多いということ。他の美術展示に比べて来場者の会話が多いことも特徴の一つかもしれません。

春画を見ている人は少し恥ずかしながらも笑顔で楽しんでいる。眉間にしわを寄せて見ている人はほとんどいません。

それはなぜなのでしょうか?

今回は、春画展主催者の浦上さんに春画の魅力について教えていただきました。江戸時代の絵師は誰しもが描いていたという春画。春画には一体どんな魅力があるのでしょうか?

「春画展」主催者 浦上満さん (撮影:コリアンダーパウダー)

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ポルノとは違う。春画はファンタジー。

―――前回のお話で、春画は世界から見ても、階級に関係なく楽しめた珍しい美術とのことでした。浦上さんからみた春画の魅力ってどういうものなんでしょう?

僕はね、春画は江戸時代に、男女2人で一緒に見たり、何人かで笑いながら見ていたと思っているんです。つまりポルノのように男性が悶々と見るようなものじゃなくて、春画はオープンで明るいものだったんです。あと、春画はファンタジーなんですよ。

―――ファンタジーですか?

そうです。例えば春画って局部を極端に大きく描いているでしょ?あと男性と女性の顔と結合部分が正面を向いている絵がかなりありますが、この姿勢ってよく 考えると無理なんですよね。江戸時代の川柳にも「馬鹿夫婦春画のまねして筋違え」というのがあるくらいなんです。そのように春画では本来ありえない体位や 構図が多いんです。

でも、そんなバランスなのに違和感を感じさせないところが、それが腕のある絵描きの真骨頂なんですよ。

―――腕の違いがわかりやすいんですね。たしかに、かなりファンタジーな作品が展示されてましたよね。

春画で一番有名な作品である葛飾北斎の「蛸と海女(たことあま)」もそうですね。タコがそんなことをするわけないんだけど、オオダコとコダコが一緒に若い女性を凌辱している絵です。絵だけみると猟奇的ですが、その後ろにはこう書いてあるんですよ。

葛飾北斎「喜能会之故真通」

出典: www.eiseibunko.com

葛飾北斎「喜能会之故真通」

オ オダコ: いつぞハいつぞハとねらいすましてゐたかいがあつて、けふといふけふ、とうとうとらまへたア。てもむつくりとしたいいぼぼだ。いもよりハなをこうぶつだ。 サアサア、すつてすつてすいつくして、たんのふさせてから、いつそりうぐうへつれていつてかこつておこうか。

引用:ja.wikipedia.org

女: アレにくいたこだのう。エエ、いつそ、アレアレ、おくのこつぼのくちをすハれるので、いきがはずんで、アエエモイツク、いぼで、エエウウ、いぼで、アウア ウ、そらわれをいろいろと、アレアレ、こりやどうするのだ。ヨウヨウアレアレ、いい、いい。いままでわたしをば人が、アアフフウアアフウ、たこだたこだと いったがの、もうもうどふして、どふして、エエ、この、ずずず

引用:ja.wikipedia.org

オオダコ: ぐちやぐちやズウズウ、なんと八ほんのあしのからミあんばいハどうだどうだ。あれあれ、なかがふくれあがつて、ゆのやうないんすいぬらぬらどくどく

引用:ja.wikipedia.org

女: アアモウくすぐつたくなつて、ぞろぞろとこしにおぼへがなくなつて、きりもさかひもなく、のそのそといきつづけだな。アア、アア

引用:ja.wikipedia.org

コダコ: おやかたがしまふと、またおれがこのいぼでさねがしらからけもとのあなまでこすつてこすつてきをやらせたうへですいだしてやる

引用:ja.wikipedia.org

つまり、オオダコは、このチャンスをずっと待っていたんだぜと。コダコはコダコで結構激しいことを言っている。でも、肝心なのは女性で、ひどい目にあって悲しんでいると思いきや、実は大変喜んでいるんです。

私はタコだタコだと言われてきたけど、本物のタコには適わないわと。タコっていうのは女性の名器のことをいうらしいんです(笑)

―――絵だけを見ていると凌辱的な感じですが、実際は違うんですね。

おもしろいでしょ。あと、春画に描かれている女性は吉原の遊女かと思いきや8割は一般の女性なんです。つまり、日常を描いてるんですよ。春画の背景には色んな小物や風物が描かれているから、それを見れば季節やその人の身分、2人の関係性もわかるんです。

単なるセックス描写じゃない、”粋(いき)”かどうかを読み解いて

―――そういえばみんな着衣ですよね。

そうです。春画って、基本的に真っ裸ではないんです。その方がより興奮するということもありますが、それよりも着物があるほうが美しいということなんです よね。つまり春画ってね、単にセックスを描写したものじゃなくて、そこに読み解く物語や情景、感じる文化があるんですよ。

そんなことを言うと一部の人たちからは「どうせ江戸時代のエロもんじゃないか」って言われたりするんですけどね(笑)まあ、それはそれで個人の見方だからいいんですが、それだけだとあまりにも寂しい気がするんですよね。基本的にね、江戸時代は粋かどうかなんですよ。

―――粋ですか

そう。例えば春画で女性をレイプしている絵もあるんですが、そういう男は毛むくじゃらなブ男に描かれていたり、時には皮かぶりに描かれてたりね。それはな ぜかっていうと、強姦の行為が恰好悪い、粋じゃないからです。逆に、2人の合意のもとで性行為をしている絵は楽しい世界に溢れている。そして、どちらかと いうと男性より女性の方がセックスを楽しんでいる感じで描かれている。

粋じゃない男はブ男に描かれている。

―――たしかに見ている側が羨ましくなるくらい女性が楽しそうに描かれてますよね。それにしても、粋だとはいえ海外と比べてもかなり自由な作風ですよね。

春画が自由すぎるという点では、実は大英博物館の春画展でもいくつかタブーがあったんです。1つは子供が出てくる春画、もう一つは暴力、つまりレイプシーンの春画です。

春画に子供が出てくると幼児ポルノを連想する向きがありますが、日本の春画に出てくる子供は、「あれ?お父ちゃんとお母ちゃん何をしているの?!」という感じなんです。子供を寝かしつけたり、遊ばせながら夫婦でしているシチュエーションもあります。

それって性行為自体を生活の一部として表現しているということで、普通に子供も出てくるんです。当然、子供自体を性の対象にはしていないんです。

浦上さんが所蔵している葛飾北斎『喜能会之故真通』の1枚。子供が描かれています

春画を猥褻という人は本物を見ていない。自分の目を信じて。

―――性行為自体が生活の一部だからなんですね。

そうですね。春画が生活の一部を表現しているのもそうですけど、春画自体が一般の人が見るものでしたからね。そして身近なものが表現されているからこそ誰 がみても下手な絵はすぐわかるんです。やっぱり腕がある人には何を描かせてもうまい。葛飾北斎には富士山を描かせてもうまいけど、女性を描かせても凄いん です。だから良い春画作品は文化遺産にしなさいという人もいるくらいですよ。

でも、春画の素晴らしさはいくら口で言っても伝わらないんです。だから現物を見てもらおうというのが今回の春画展の一番大きな目的です。春画の本もたくさん刊行されているけど、本物は違います。やはり本物にはオーラというか感動があるんです。

見たい人は見てください、見たくない人は見ないでいい。で、見た人が自分で良し悪しを判断してくれればいいんです。春画をただの猥褻画として非難をしてい る人たちの大半は本物の春画を見たことがないんです。実物を見てもいないのに悪口を言うというのは馬鹿な話で、偏見でものを言っているということです。

僕は春画をコレクションしてまだ20年足らずですけど、春画の良いものは素晴らしい美術品だと思います。皆さんも自分の目を信じて作品を素直に見てください。

―――実物を見みると色の鮮やかさなどに驚きました。

でしょう。絵の良さに関しては、絵のうまさはもちろんですが版画なので摺(す)りが早いか遅いか、保存状態によって印象が変わります。後摺(のちずり)だと版木が摩耗して線が鈍くなりますし、グラデーションのような微妙な色使いもなくなります。

だから僕らは春画に限らず、できるだけいい状態の版画を見なきゃいけない。そうじゃないと当時の絵師が本当に表現したかったことがわからないし伝わらないですからね。

次回につづく
「春画は女性が語るべき」江戸時代にもどりつつある女性の感性とは?

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